商店建築
2008年6月号


掲載P134〜136
出版:商店建築社

掲載データ

時間と共に移動する光によって、空間が変化する現象に興味がある。樹木の影が壁に映ると美しいと感じる。この意識を大切に建築の設計をしたいと考えている。


敷地は滋賀県彦根市に位置する。この地で10年営業されてきた美容室のリニューアルに伴う新築計画である。オーナーからは新しい空間でありながらも、幅広い年代に受け入れられる居心地のよい空間を求められた。以前の店舗では駐車スペースに問題があったため配置計画から解決した。可能な限り駐車スペースが必要であるという要望に対して、全面道路から8m、北側の隣地境界から3mの引きを確保した。これによって建築可能な平面が敷地に描かれ、その輪郭をトレースすることで建築のヴォリュームを決定した。


幅12m、奥行き7m、高さ4.3mの1.5階分の高さをもつ木造平屋のシンプルな箱。大きな箱の内部は3つの小さな箱を配置し、上部を利用することで2層の空間となる。行為や機能、周辺環境や自然との関係性を整理することで一つ一つの部分から箱と箱の最適な関係が浮かび上がり、隙間からは光が射し、視線が抜け、気配が伝わり、空気が流れる。全て見渡せるワンルームではなく、程よいプライバシーを確保しつつ多様な居場所が存在し、シンプルだが複雑な空間が実現した。


構造は木造の在来工法。内部に現れる3本の柱に梁を組み、外周部に耐震壁を配置することで大きな箱を実現した。特別な構造や構成ではなく、その場に求められるものや関係を読むことで素直に空間化し、長く愛される普遍的な強さを持つ建築を目指した。(文・武田邦康/クニヤス建築設計)


店長のひとこと
この地での営業は12年目になり、お子様から年配まで幅広い層のお客様がいらっしゃいます。男性のお客様は約3割です。リニューアルにあたり、設計者には誰もが居心地よく、自然を身近に感じられる空間をお願いしました。
座る席によって見える景色が違い、お客様からは次はあちらの席に座りたいとリクエストが出るなど、非常に好評です。今後は新メニューのヘッドスパをはじめ、お客様の疲れを癒すサービスと店づくりをしていきたいと考えております。(文・山本敬三/Keizo)